『ラブライブ!』講義

 ネットで少し話題になった?らしい『ラブライブ!』の講義資料(7月7日、非常勤先にての講義)を貼っておきます。まあ、もう1月半も前になるので今さらなのですが、私個人にとって大事な考察でもありましたので…。
 https://drive.google.com/file/d/0BwL_fFE2mYbQZjFoN3FsdW0wYXM/view?usp=sharing
 キーワードは「単独的な身体性」。1990~2000年代におけるポップカルチャー的想像力――「世界の終わり」「パラレルワールド」「ループ」「転生」――を経て、「他でもないこの私/の身体」への回帰が志向されていく2000年代半ば以降の流れの中に、『ラブライブ!』を位置づける試みです。ただし、2010年代における「単独的な身体性」は、単純な身体性への回帰によって成り立つのではなく、いわゆる2.5次元作品、声優ライブ、コスプレ、聖地巡礼など、2次元世界(虚構)に同一化する自己/3次元世界(現実)を生きる自己……を融合・止揚した「新しい身体」の創造によって生成されていきます。そのまさに中心としての役割を担い得たことが、『ラブライブ!』の歴史的意義である、というのが結論です。
 資料17ページ、震災の話が突然出現するのがちょっと奇異に見えるかもしれません。そもそも、『ラブライブ!』は直接的に震災の影響を受けているわけではありません。ただあの震災は、被災の当事者と、非当事者・傍観者(テレビ画面に見入るしかなかった人々)との引き裂かれた距離を通じて、「ここにだけ存在している、ただ一つの私の身体」への自覚を否応なしに迫る出来事だったと思います。それは、データ化された自己の断片がネット上に無数に散らばっているような感覚と対峙するものです。2010年代における「新しい身体性」の問題を、こういう認識の場においてとらえることは重要なことだと考えているのです。(現在、次の著書を「ポスト3.11の現代文化論」という形で構想しているので、こういう文脈を持ち出したくなるということもあります。)
 ただし、まだ論理的に詰めが甘い部分がありますし、単純すぎるきらいもあるので、もう少し捻りを入れたいところです。そのあたりを修正して、秋には論文にしたいと思っています。

この記事へのコメント

  • かわかみ

    お久しぶりです、早稲田で授業を受けさせていただきました川上と申します。
    また早稲田で授業を受けられる日を心待ちにしております。
    自分はアニメーションと芸術の関連性についてしばしば考えることがあります。
    アニメーションも芸術と認められることができればサブカルチャーのうちの一ジャンルでしかないという認識から、映画のように確立された研究対象になるのではないかと考えております。
    ただ、商業ベースであるアニメが芸術たり得るかといわれると確証はありません。
    授業が受けられない今では、先生のブログ更新を楽しみにしております。失礼しました。
    2016年08月29日 23:14
  • 千田洋幸

    川上様
    お久しぶりです。その後もポップカルチャーに親しむ日々を送っておられるようで何よりです。
    私もアニメに関しては、「芸術」と呼ばれないまでも、アカデミズムの中で研究対象として認知されるべきだと思っています。そのためには優れたアニメ作品が日々生産される必要があるのですが、過日もお話しした通り、現状ちょっと心もとないのが気がかりなところです。それでも中には優れた作品がありますので、それに価値を与えることが自分の仕事の一つだと思っています。
    またどこかでお会いできるのを楽しみにしています。
    2016年08月30日 00:27
  • かわかみ

    千田先生
    お返事ありがとうございます、一時期アニメから離れていたこともありましたが、この前、僕だけがいない町を見て、すぐれた作品とはいったい何のだろうと考えるようになりました。
    先生のおっしゃっていることを顧みると後者を指しているように思えますが、優れた作品とは商業的成功や、世間への影響を指すのでしょうか。それとも日の目を見たか如何を問わずに何かメッセージ性や、意義を持つもののことでしょうか。
    自分としては半期の授業で週に一度はサブカルチャー論のような授業に触れていたい気持ちがあるのですが現状大学ではそのような授業が少なく寂しい思いをしております。もし、何かありましたら教えていただけると幸いです。
    2016年08月30日 00:50
  • 千田洋幸

    もう一言だけ。私は仕事柄、やはりアニメに思想性を求めたくなってしまうのですが、一方でエンタメは一定の商業的成果をあげないと葬り去られてしまいます。たとえば押井守監督はかつて『天使のたまご』(1985年)という傑作を作りましたが、これがまったく売れなかったため、しばらく新作を作ることができなくなってしまいました。やはりアニメは芸術性/商業性を二者択一で考えることはできないジャンルで、一定の商業性を前提としつつ作り手の意志をそこにどう介入させられるか、が勝負なのだと思います。また、商業性を意識するからこそ面白い作品が生まれる、ということもあり得るでしょう。
    押井監督の『天使のたまご』、一度観てみるといいと思います。「難しい」「眠い」という評も多いようですが…。
    2016年08月30日 01:48